第8回 取り合い部の設計、施工 ここが大事“取り合い部”
(1) 省エネ性
同じ温熱環境を維持するために必要な1次エネルギー消費量は、図5のような結果が得られました。
エアコンが最も1次エネルギー消費が少ない、すなわち地球環境に優しい暖房であることがわかります。図3のイメージ調査では、ガス床暖房の方が地球環境に良いと思われていますが、実際には床暖房はエアコンの2倍以上の化石燃料を消費して二酸化炭素を排出していることになります。
図 5 各種暖房機器の省エネ性、温熱環境実験室
(2) 温度分布
室内温度分布も、イメージと実験は異なる結果になりました。図6は、暖房時の水平方向と垂直方向の温度差を示しています。
図3の暖房のイメージ調査では、エアコンは「暖まり具合がよくない」「足元が暖まらない・暖まりづらい」暖房として多くの人がイメージしています。
しかし図6では、エアコンはガスファンヒーターよりも、上下温度差が小さく、水平温度差も小さい結果が得られています。上下温度差が小さいということは、足元が暖まらないとは言い切れません。水平温度差が小さいということは、暖まり具合がよくないとは言い切れないでしょう。逆に暖房のイメージ調査で高評価を得ていたファンヒーターですが、エアコンよりも上下、水平共に温度差が大きい結果になっています。意外かも知れませんが、ガスファンヒーターの吹出温度は高くて上昇気流になりやすく、吹出気流が部屋に行き渡る前に天井付近に上昇してしまいがちです。
床暖房の温度差の少なさは、まさに脅威です。この均一な温度分布の為に床暖房は快適と言われるのですが、その快適さを得る為に多くのエネルギーを消費する事は、「(1)省エネ性」でお判りかと思います。
図 6 暖房時の室内温度分布の比較
(3) 立上りの早さ
“立上りの早さ”とは、暖房機器のスイッチを入れてから室温が目標とする温度に達するまでの時間の事です。朝起きて寒い部屋を暖める時には、“立上りの早い”暖房機器が重宝します。
図7は、立上りの早さを実験した結果です。縦軸は作用温度の上昇幅を示しています。作用温度とは、空気温度と放射温度、風速から得られる温熱指標の一つで、人体が感じる温度に近い値です。
暖房開始後約20分で、エアコンとガスファンヒーターは7.5℃上昇しています。一方、ガス床暖房はエアコンと同等の温度差に達するのに2倍以上の時間を要することがわかります。
図3の暖房のイメージでは、エアコンは「即効性(暖まる速さ)に欠ける」の質問で最も悪い評価の暖房でした。しかし、実情はファンヒーターと変わらぬ速さです。ここでも、エアコンの暖房性能を間違ってイメージしていることがわかります。
図 7 立上りの早さの比較
(4) エアコン暖房の本当の姿
さて、この実験からお分かり頂けたと思いますが、エアコン暖房は最も省エネ性に優れた暖房機器です。標準的以上の断熱性能を有する住宅ならば、一番の省エネ性能を発揮します。エアコンは電気代がかかると言われていたのは遠い昔の事です。現在のエアコンはとても省電力化が進み、ホットカーペットよりも少ない電気代で暖房ができます。
「エアコン暖房では足元が寒く・・・」という言葉を聞くことがありますが、それは住宅の断熱不足や隙間風が影響しているからかもしれません。断熱性能の良い住宅であれば、エアコンはファンヒーターよりも 良い温度分布を形成することができます。
エアコンの本当の姿は、“最も省エネで地球環境と家計に優しく、立上りはスピーディーで、しかも温度むらや足元の寒さはファンヒーターより優れた”暖房機器なのです。