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第7回 開口部の断熱:窓は★★★でチェック

第7回 開口部の断熱:窓は★★★でチェック

日本の伝統的な建築様式を色濃く残すものの一つが、「窓」です。

畳の床はフローリングに、土の壁は石膏ボードやサイディングに替わり、生活様式も欧米に近づいた日本の住宅ですが、窓だけは未だに引き戸が主流です。欧米の住宅の窓は、石積みや煉瓦積みの壁に設けた小さな孔です。したがって、開き戸や上げ下げ窓など縦長の形状をしており、日本の住宅に比べて小さいのが特徴です。一方、日本の伝統建築は柱の間を全て板戸や障子の引き戸とし、開閉自在な大きな開口としています。「窓」の語源は「間戸」という説もあります。「間戸」は高温多湿の日本の夏を快適に過ごす事と、湿気による腐れや白蟻から木造躯体を守る伝統的な工法の一つと言えるでしょう。また、この大きな開口が内と外の連続性を生み、日本の建築文化、庭園文化を育みました。

この「間戸」の伝統は、現在の引き違い窓に引き継がれています。欧米化が急速に進む日本の住宅ですが、「窓」だけは引き違いが今なお主流となっています。四季の変化や風の心地良さ、太陽の光の暖かさを楽しもうとする日本人の心がそうさせているのでしょう。

ところが、環境時代と言われる今日、その日本の窓文化が危機に晒されています。外壁に比べて断熱性能が劣る窓は、断熱性能をアップする上ではお荷物と思われているのです。しかし、窓はお荷物ではありません。上手に選択、設計を行えば、大きな開口から日射や風を効果的に呼び込むことができ、快適性や省エネ性を高めて高断熱住宅の快適性、省エネ性を更に向上させることができるのです。

1. 開口部の断熱現行の平成25年基準ではありません。ご注意ください!

1-1 開口部の断熱の重要性

(1)熱貫流率の比較

住宅の中で窓が占める断熱性能の役割とはどのくらいなのでしょうか。
木造住宅の壁などの断熱性能と開口部の断熱性能を基準値で比較したのが表1です。窓の熱貫流率が2.33〜6.51[W/m²K]に対して、壁は0.35〜0.53となり、窓は躯体よりも7〜12倍も熱を通しやすいということになります(図 1)。

【表 1 次世代省エネ基準(H11年基準)の熱貫流率基準値[W/m²K]】

  I II III IV V VI
開口部 2.33 2.33 3.49 4.65 4.65 6.51
躯体(木造住宅) 屋根・天井 0.17 0.24 0.24 0.24 0.24 0.24
0.35 0.53 0.53 0.53 0.53 0.53

図 1 全て充填断熱工法の組合せ例

図 1 熱貫流率基準値の比較

(2)暖房熱損失の比較

次に暖房時の熱損失の割合で開口部の影響を確認してみましょう。

開口部からの熱損失が住宅全体の熱損失のうちどの程度占めるかを計算により求めたのが図2です。断熱性能がAからDに向上するに伴い、住宅全体の暖房熱損失は減少しますが、開口部の熱損失の割合は大きくなります(AからC)。Cでは約半分が開口部からの熱損失になっています。このことから、開口部の断熱性能が住宅全体の熱損失に与える影響が非常に大きいことが分かります。

Dは省エネ基準レベルよりも高性能の窓を用いた場合です。窓からの熱損失も減少し、住宅全体で見ても熱損失が減少しています。各部位からの熱損失の割合も他に比べて均一化され、バランスが良くなっています。

住宅全体の断熱性能向上を考える上で、開口部は非常に重要な役割を担っていることが判ります。

図 2 全て外張断熱工法の組合せ例

図 2 暖房熱損失の割合

(3)冷房熱損失の比較

一方、図3は冷房時の熱損失の割合を示したものです。暖房時と同様にAからCに断熱性能を向上させるにつれて住宅全体の冷房熱損失は減少しますが、開口部の割合は増加しています。ただし、Dの高性能サッシ(樹脂+LowEガラス)は暖房時の熱損失を51%から34%まで大きく減少させていましたが、冷房時は69%から67%のわずか2%の効果しか得られていません。Dの高性能サッシ(樹脂+LowEガラス)は、暖房の熱損失を防ぐ効果があっても、冷房の熱損失を防止する効果は少ない仕様であることが分かります。

冷房に効果的な開口部特性は「日射遮蔽(以下、“遮熱”と称します)」です。Dの高性能サッシは、断熱性能は高いのですが、遮熱性能は一般的なものです。遮熱とは、日射を遮り、冷房の負荷を減らす有効な対策です。“よしず”や“すだれ”は伝統的な遮熱手法の一つで、風は通しますが、日射を程よく遮りながら、風流な景観を得ることができます。現在では、この“よしず”や“すだれ”のような効果(風流さはありませんが…)を窓ガラスだけで得ることができるガラスも開発され流通しています。

図 3 冷房熱損失の割合

図 3 冷房熱損失の割合

1-2 開口部としての窓

■ 『開口部』とは

「開口部」とは、窓と出入口の総称です。住宅の快適性を保ちながら省エネルギー性を高めるためには、躯体の断熱性能はもちろんですが「開放」できる開口部の断熱性・気密性および日射遮蔽性を確保することが必要です。今回は、特に「窓」の断熱、日射遮蔽について考えてみます。

※ 高断熱住宅の省エネ性、快適性では、通風も重要です。本来はこれも解説したいのですが、紙面の制限の為、断熱と遮熱についてご説明いたします。

■ 『窓』とは

窓にはいろいろな機能、性能が求められています。採光、眺望、換気、通風、遮音のほか、防犯、防火に対する性能もあります。窓の断熱性能が不十分な場合には、冬に窓から冷気を感じたり、暖房しても暖まらなかったり、結露が発生したり、と快適とは言い難い環境を作ってしまうこともあります。夏では西日や部屋の室温上昇、冷房の効きの悪化などに繋がります。